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Still Life

残念IT系母ちゃん。旦那さん、娘1歳、猫の4人暮らし。

笑ってばかりもいられない。ディストピア感漂う本「日常に侵入する自己啓発」を読んだ

日常に侵入する自己啓発: 生き方・手帳術・片づけ

日常に侵入する自己啓発: 生き方・手帳術・片づけ

わたしは手帳術、ノート術に目がなくて、毎年10月ごろのAssocieや日経ウーマンの手帳特集は必ず買ってしまうほどです。
なので、図書館の蔵書検索でも「手帳術」とか検索しちゃうのですが、けっこう出てきて嬉しくなっちゃいます。

それにしてもこのタイトル。一見して、「知的複眼思考法に載ってたメタ的なアレじゃね?」と思いました。メタ的になって頭が良くなりたかったので、「あな吉さんのハッピーコラージュ手帳術」と一緒に、この本も借りました。

自己啓発書の研究をした本

すごく厚ぼったくて字の小さい本でした。自己啓発本を研究した本ですが、新書以外で初めて読んだ社会学の本だと思います。
自己啓発書を研究する人なんているのかとちょっと驚くのですが、先行研究すらあるようで、その本が頻繁に引用されています。
もちろん自己啓発書そのものもたくさん引用されています。参考文献500冊以上!ずらっと並んだ一覧を眺めていると、読んだことのある本もちらほら。しかし見るからにおかしなタイトルや著者名の本もあります。
例えばこんな本。
大富豪アニキの教え
表紙を見る限り、自分としては最も遠ざけたいと思ってしまうキャラ付けですが、これに憧れ目標にする人もいるんですね・・・。

自己啓発書とは

この本では自己啓発書が世に出版され、消費される世界を「自己啓発界」と位置付けています。構成要員として著者や編集者、そして読者が挙げられていますが、わたしからすると著者が研究対象をうっすらとdisっているところがとても面白かったです。まず最初に「引用たくさんするけど引用した内容に影響受ける人なんていないよね?いたとしても責任持たないからね(大意)」と牽制していたり、編集者や読者へのインタビューを書き起こしている部分では、妙な略語や明らかな言い間違いをそのまま起こして(ママ)と注釈したりしています。しかし、著者によれば、「先行研究はみんなもっとdisってるけどわたしは公平だよ(大意)」だそうですが。

この本では自己啓発書を「年代本」「手帳本」「家事本」に分けてそれぞれ変遷を解説しています。
「年代本」というのは、よくある「20代のうちにやっておくべきこと」みたいな本です。「手帳本」については言わずもがな、「家事本」とは片付けや風水、シンプルライフの類です。ミニマリスト本はがっつりここに入るでしょう。

大好きな手帳術本の章なんてすごく面白かったです。特に、手帳術が「夢」と融合してブームになったあたりからは、全部懐かしく思い出しました。そうそう!夢かな手帳買った買った!
この図を眺めるだけでワクワクします。
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自己啓発が日常に「侵入する」とは

著者が自己啓発書の問題点として挙げているのが、特に男性向けの年代本で顕著なようですが、あらゆる対象をコントロール可能なものとして自己啓発の世界に引っ張り込んでいる一方で、コントロールできないものはあっさりと切り捨ててしまうことです。社会問題には「変えられないもの」として思考停止し、自分のパートナーまでも遠ざけてしまいます。そしてそんな本が、書店に居ならび、かなりの人が手にするという社会が出来上がっているのです。この本のタイトルが途端に不気味に感じられてきます。

仮に職場に問題があったとしても、そこから目を背けさせてしまうという危うさを孕むものである。上記した仕事への没入志向や自己責任志向と合わせて、一〇年代の「年代本」はかつてないほどに個々人に仕事上のトラブルを帰責する方向へと傾いているようにみえるのである。

男性向けの年代本がこのような過剰な自己責任論に覆われている一方で、女性向けの年代本では「自分らしさ」を仕事にまで肥大させているようです。

そもそも本章における対象資料のうち、今日の労働環境それ自体について、一ページ以上—つまり、紋切型の説明以上—の言及がみられる著作はたった三冊に過ぎない。その一方で、仕事における成功や、好きなことの実現についての可能性が、まさに自分次第で可能になるとする、およそ実情とはそぐわないようにみえる楽観論が語られるのである。

男性向けの本があまりにもマッチョ(『ヘゲモニックな男性性』と表現)に、女性向けの本はあまりにも矛盾したレトリックで、日常的に自己改革を迫ります。怖い本はワタミだけではなかったようです。年代本なんて仕事ハックか恋愛指南しかないと思っていたわたしはかなりビビりました。

読者を見つける難しさ

著者も何度か述べていますが、この本で研究対象となっている、自己啓発書の読者は非常に偏りがあります。首都圏在住である、数が少ないといった問題です。わたしとしてはそれ以上に残念なのが、読者の自己啓発書への没入度合いについてです。
この本で調査した読者は皆非常に軽い没入具合だと思いました。インタビューでも、「本を全部信じているわけではない」とするような回答ばかりです。そして、「自己啓発書を読んでいる人ほど(新聞なども読んでいて)社会に関心があり、情報リテラシーが高い」という調査結果になっています。これをもってして「日常に侵入する」感が出ているとも思えますが、この程度のライトな読者だけなら、他のあらゆる内容の本でも同じ結果になるのではと思います。
先にリンクを貼った、「兄貴」なる人物による本など、Amazonのレビューを見ると、やはり「セミナーの広告媒体」として書籍を利用しているようです。書籍が広告なっているパターンも、セミナーにまで足を運び、サロンに入会してしまうようなディープな読者層の存在も興味深いですが、今回の研究対象ではなかったようです。でもそこまで行ってしまうともう別の研究になってしまうのかも。

次の自己啓発のネタは?

著者は「とりあえず今の材料で書けることは全部書いた。もうお腹いっぱい。でもまたこの業界の状況が変わったら続きを書くかもよ。(大意)」と一応の決着を見ているようです。
自己啓発業界は常にネタを求めているでしょうから、また誰かが新しいネタを引っ張り込んで、新たなブームを作るでしょう。
わたしとしては、人生教訓から手帳、片付けときたので、きっと次のブームは料理になると思います。まあ自分が今料理を頑張っているからそう思ってしまうんだと思うんですけど。「人生を変えるハッピー・レシピ」とか「一週間作り置きが実現する奇跡のタイムマネジメント」とか「幸せのレシピ・ノートの作り方」とか。買っちゃいそうです。